ありんくりんニュース
本部町水納島のカラスアゲハ
 蝶研フィールド114号で報告したものの、気になっていたカラスアゲハがありました。それは本部町水納島で採集した個体です。当時は、台湾型として報告しました。
その後、波照間島で採集したカラスアゲハの中に八重山産とは明らかに違った個体について、相澤和男氏に同定頂いたところ、台湾型と台湾緑島型を採集していたことが分かりました。
水納島で採集したカラスアゲハは、このいずれのタイプともちょっと違うように思えたので、再び相澤氏に写真を見て頂く事にしました。そして、以下のようなお返事を頂きました。
----------相澤和男氏のコメント------------
結論として両個体とも P. bianor bianor(記載名義亜種)と考えます。
1.八重山産、台湾本島産とも翅型が異なる。
2.八重山産、台湾本島産とも前翅裏面の白帯が異なる。
3.八重山産、台湾本島産の夏型では後翅表面亜外面の赤紋が出ない。
 これらの特徴はいずれも出現することはありますが、八重山産、台湾本島産でこの三項目を合わせて出現するのは非常に稀だと想い、P. bianor bianor としました。
 何処から来たのかというと、台湾に近い江蘇省、福建省、浙江省辺りかなと推察しますが定かではありません。最近は天津市でも採れていますし、台湾省緑島も考えられますが、中国本土産のように考えます。
-----------------------------------------------
とのことでした。いつも、ご教示頂いています相澤和男氏に重ねて感謝申し上げます。
 余談ですが、新田智は、この水納島では採集した2♂の他にもう1頭、同じようなカラスアゲハを目撃したのですが、間に合わず採集が出来かなったそうです(飛び去る方角は伊江島の方向)。また、この採集個体は他の迷蝶と同じように体脂肪を多く持っていたのか、展翅中にシミに気づき油抜き、カラスアゲハ類で脂が出るのを見たのは初めてとのこと。
 私が知っている沖縄県内(八重山諸島以外)におけるカラスアゲハ(P. bianor)の記録は、写真で示しています新田智の個体と、家村義典氏が2001年に名護市で採集された個体の2例のみではないかと思います。ただ、記録されていないだけかもしれません。皆さんが採集された沖縄本島周辺のオキナワカスアゲハの標本箱をもう一度、注意深く眺めると、ちょっと気になる個体を見つけることができるかも?。見つけたら(オキナワカラスアゲハとは明らかに違うな〜と気づいたら)、こっそり教えてね(新田敦子記)
※なお、新田智は何度か水納島を探索していますが、オキナワカラスアゲハを見た事がないとのことで、この島には記録がないのではないかと思います。文献によっては分布一覧表などでオキナワカラスアゲハの欄に○印のある(カラスアゲハの欄は空白)ものもありますが、これは「蝶研フィールド114」のカラスアゲハの記録を誤ってオキナワカラスアゲハとして取り上げプロットされたのではないか?と考えています。もし、水納島のオキナワカラスアゲハの記録をご存知の方がおられましたら、ご教示いただきたくお願いします。
【参考文献】
 新田智(1995)沖縄県本部町水納島の蝶 蝶研フィールド114.
 家村義典(2002)沖縄本島でカラスアゲハを採集 蝶研フィールド190.
♂(表面)本部町水納島 1993年6月22日 新田智 同左裏面 ♂(表面)本部町水納島 1993年6月22日 新田智 同左裏面