ありんくりんコラム(2020年5月31日)
沖縄蝶類島嶼別分布表で思う事
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 このコーナーは私の考えなどの覚え書き、その時々のメモ書き、独り言みたいなものです。今後、歳をとるごとに考えや思い込みが覆る事も多々あるかとは思います。ということで、現時点の考えをメモする事は恥ずかしい事かもしれませんが、そこはご愛嬌で受け止めていただけると有り難いです。そして、語意力が乏しいので言わんとしている事が稚拙で間違った言葉選びをしている可能性があります事、ご勘弁頂きたい。

◆沖縄蝶類島嶼別分布表で思う事
 今回は自分用にと作成している沖縄蝶類島嶼別分布表(以下、分布表とする)について覚え書きのような、独り言を書いてみます。
先日、矢後勝也氏より、この分布表を元に土着、半土着、非土着に区分されてみてはとご提案を頂きました。
土着を●(年中見られると思われる)、半土着を半丸または△(毎年のように移動蝶が一時発生しては消えている,季節蝶)、非土着を○(真の迷蝶、単発一時発生迷蝶)として、プロットを分けしてみました。沖縄本島および、周辺離島については何となくこうなんじゃないかなと悩みながらプロット、八重山島嶼については青木一宰氏の「琉球列島島嶼別蝶類分布表」(2020)から、転写することにしました。また、行った事がない無人島などについては、全て○としました。
◆分布表の見直し
 この際だからまずは、分布表の見直し作業を行いましたが、これは一苦労でした。私が蝶研出版を解散したのが2007年、その後に発行された文献は殆ど目にする機会もなく、以前に発行した「離島大好き採集ガイド沖縄・宮古編」ほかスーパー採集ガイドシリーズ、および「蝶類年鑑」と「白水隆日本の迷蝶」を頼りに、まずは双尾IIのホームページの「沖縄蝶類生態図鑑」の分布および「沖縄の島の案内」の島嶼別蝶の記録種を作成ました。それを元にイラストレータで分布表のたたき台を作成しました。
蝶研出版の頃は蝶類年鑑や産地一覧などファイルメーカーを使って管理していました。当時はわざわざ、分布表を作らなくともそのソフト(ファイルメーカー)で、簡単に調べる事ができてました。しかし、解散後はファイルメーカーソフトが高額過ぎて購入することもできず、蝶研時代に蓄積した膨大なデータ(蝶類年鑑と蝶研サロンの採集情報)があっても、見る事も追加する事も管理する事もできなくなりました。そういった事情から、イラストレータで分布表を作る事になったのでした。今なお、ファイルメーカーで更新し続け管理出来ていたらと思うと残念な気持ちになります。
さて、私の分布表の大元は「離島大好き採集ガイド沖縄・宮古編」から始まったのですが、2019年、2020年と分布表を巻末に掲載された書籍が立て続けに発行されました。「改訂・沖縄県の蝶ー記録された島と食草ー」(2019)と「琉球列島採集観察地ガイド」(2020)です。新知見が満載の2冊の分布表と照らし合わせ作業を行っていて、「離島大好き採集ガイド沖縄・宮古編」の分布表で明らかに誤ってプロットしていたものが見つかりました(以下)。これらをまずは、抹消する事にしました。
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『離島大好き採集ガイド沖縄・宮古編』の記録抹消とお詫び
筆者が手がけた『離島大好き採集ガイド沖縄・宮古編』の島嶼別蝶類分布表で出典不明のまま誤ってプロットしていることが判明したので以下のプロットを取り消する。
タイワンアオバセセリ;下地島
ヒメイチモンジセセリ;久高島
オオシロモンセセリ;来間島
モンキチョウ;慶留間島
カワカミシロチョウ;伊是名島
イワカワシジミ;伊良部島、下地島
ウスアオオナガウラナミシジミ;伊良部島
ヤクシマルリシジミ;宮古島
ニセミナミコモンマダラ;下地島
発行を急ぐばかりに、出典の確認が疎かになり、以降の発行物に影響を及ぼした事に、誌面をお借りして深くお詫び申し上げる。
【出典文献】
新田智・新田敦子(2001)離島大好き採集ガイド沖縄・宮古編、116-119(蝶研出版).
(あらた あつこ 〒904-2232 うるま市川田125-1-103)
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文献を目にする機会が殆どなくなってきている中、「月刊むし」の回顧録は、記録更新の手助けになっています。「月刊むし」の回顧録は、前年に発行された昆虫雑誌・同好会誌などから注目すべき要点をまとめていて、蝶界を執筆されているのは矢後勝也氏です。大変有り難い事に、矢後氏より毎年、別刷りやPDF資料をお届け頂いてます。感謝。他には、NRC出版、日本チョウ類保全協会、ホシザキグリーン財団、山形昆虫同好会、相模の蝶を語る会、三重蝶友会、京都大学蝶類研究会、鹿児島昆虫同好会から引き続き,文献をご恵与頂いてます。文中ではありますが、各団体の方々に感謝申し上げます。
こうした,皆様のお陰で毎年、双尾IIのホームページの更新ができています。
◆分布表の見直し作業で判断が難しく思った種
 「改訂・沖縄県の蝶ー記録された島と食草ー」(2019)と「琉球列島採集観察地ガイド」(2020)を見ながらの照らし合わせは発見と頭を捻る連続でした。この作業で青木一宰氏と比嘉正一氏には大変お世話頂きました。文中ではありますが、両氏に感謝申し上げます。
新たな記録のプロットは実に楽しい作業ですが、私が知らなかった古い記録の取り扱いについては拾い上げる人によって微妙に違うのだなと感じています。例えば、石垣島のキアゲハについてです。
原典は「よいこの蟲だより135-136」(1994)で「キアゲハ1♂ 石垣島オモト林道 1994年10月21日 明井勝治」。この記録を白水隆先生が拾い上げた白水メモ、それを元に「白水隆 日本の迷蝶III」を発行しました。この記録について問い合わせがありましたので、当時「よいこの蟲だより」を編集されていました吉岡政幸氏に問い合わせしましたところ、誤同定の可能性を示唆するものの、記録の抹消の記事は2020年現在もないそうです。記録に関しましては、抹消されるまでは残すべきだと私は考えていますので、現在もホームページ及び個人的な分布表にはプロットしています。そもそも、記録の抹消については、記録する時と同様に慎重であって欲しいと思っていますし、抹消する場合は記録したご本人が間違いと分かった時点で抹消するべきかと思っています。
先の『離島大好き採集ガイド沖縄・宮古編』の記録抹消とお詫びを示したのは、後の世代に誤った記録(誤った分布表のプロット)を孫引きされてしまう恐ろしさを痛感したからでした。私の場合は、下地島のニセミナミコモンマダラを誤ってプロットしていたので、後の文献や分布表に誤ったまま孫引きされていた事に気がつきました。『離島大好き採集ガイド沖縄・宮古編』の発行当時から遡って「蝶類年鑑」を見直しても、蝶研サロンの情報集を見直しても下地島のニセミナミコモンマダラは出て来ませんでした。そのような、事から抹消することにしました。
他の例について箇条書きし、覚え書きとします。
伊平屋島のソテツシジミについて
「採集された標本を持っている(具体データなし) 採集者の記なし」これは恐らく屋代弘孝(1932)「沖縄島の蝶類」(ZEPHYRUS 4 巻 2・3 号, 119-125.)で、その後(長嶺 邦雄,蝶と蛾 17(1/2):43,1967)疑問視するも抹消はされていません。
沖縄本島のシロオビヒカゲについて
沖縄本島での記録(金子孝之・西和人、おとしぶみ(11);41、43、1982)は具体データがなく、削除扱いされる文献もあるらしいです。
このように、取り扱う人によって削除されたりするのも何だかな〜と思うのは私だけでしょうか?。特に古い文献になると実際、原典を確かめるすべもなく何とも言えませんが・・・。
◆プロットするにあたって判断に困った蝶
最初に書いてますが、土着を●(年中見られると思われる)、半土着を半丸または△(毎年のように移動蝶が一時発生しては消えている,季節蝶)、非土着を○(真の迷蝶、単発一時発生迷蝶)として、プロットを分けしてみました。沖縄本島および、周辺離島については何となくこうなんじゃないかなと悩みながらプロット、八重山島嶼については青木一宰氏の「琉球列島島嶼別蝶類分布表」(2020)から、転写することにしました。また、行った事がない無人島などについては、全て○としました。
判断に困った蝶は以下で主に△にしました。
新田智から聞く新たに(1970年代?、それ以前は殆ど見られなかった種)沖縄本島まで侵入した蝶(ベニモンアゲハ・ナミエシロチョウ・アオタテハモドキ・ツマムラサキマダラなど)です。判断に困った難しい種は△にしています。
ベニモンアゲハ;定期的に幼虫を確認出来たのは瀬底島、数回の観察で幼虫・発生を確認出来たのは浮原島、年度によって個体数が変動する古宇利島。いずれも春に多く見られ、一年を通して見られるような蝶ではないので、△にしています。
アゲハ・モンシロチョウ・アカタテハ・ヒメアカタテハ;季節によって見られる数が違い、年度によっても変動が大きい。季節蝶として△
クロアゲハ、オキナワカラスアゲハ、モンキアゲハは本島からのまれな移動蝶として、周辺離島は白丸にしています。
モンキチョウは●にするか△にするか微妙です。季節蝶のような気もします。一応●にしていますが、判断を委ねます。
ナミエシロチョウの南浮原島はツゲモドキで発生を確認(強気ですが)、△にしています。
ヒメシルビアシジミ・タイワンクロボシシジミなど移動性の強そうなシジミは大きな本島については、見えてない場所が多すぎるのでどこかに居る可能性もあるので●、それ以外の周辺離島は△にしました。クロマダラソテツシジミは毎年消える、空白時期があるので全て移動蝶と考え△です。
ツマムラサキマダラは沖縄本島で土着化が進んできているような気がしています。もちろん、迷蝶として毎年、絶える事なく入って来ているのかもしれませんが、以前よりも幼生期の確認をするのが多くなった気がしています。沖縄本島は●とし、周辺離島については本島産から分布を拡大、消長させているのではと考えています。一応、主な周辺離島を△にしていますが、迷蝶扱いの○の方が良いのか?、判断を委ねます。
◆分布表の「未」について
 分布表にあります未(未発表や伝聞)について、覚え書きをしておきます。
新田未発表あるいは私信
名護市(奥武島);シロオビアゲハ 2018.04.03、モンキアゲハ 2018.04.03
大宜味村(宮城島);オキナワカラスアゲハ
浜比嘉島;ムラサキツバメ(宮城秋乃氏私信)
沖縄島;ヒメアサギマダラ(新田智が標本を確認している;石川高原1990年代?採集されたばかりの生々しい1個体を採集者から見せられた。1970年代?夏休みの宿題で先輩の標本箱に石川ビーチ産の1個体が入っていた)
浜比嘉島;コモンマダラ(宮城秋乃氏私信)
名護市(奥武島);フタオチョウ(新田発生確認、あえて伏せている)→使用する場合は未を消して下さい
瀬底島;クロボシセセリ
石垣島;トラフタテハ(1970年〜1980年代?新田智が石垣島に渡島した際に採集した本人から以前、新婚旅行時に石垣のビーチで翅を開いた個体を目撃、最初は蛾と思っていたが、本種だったと→標本は故後藤和夫氏所蔵。その後、その方は沖縄本島へ訪れ後藤氏案内のもと今帰仁村玉城林道へ、そこでもトラフタテハを目撃、石垣で採集経験があったので本種と分かったので、慌てて少し離れていた後藤さんを呼びに、彼に採らせたいと言う思いから。しかし、興奮していた後藤さんは薮を叩きすぎて逃してしまったそう)
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琉球大学風樹館コレクション所蔵標本目録作成のための整理お手伝いをしたのですが、以下が未発表標本でした。目録がまだでしたら未発表ということで、「未」にしています。ただし、このバイトの話は6年前ですのでもしかしたら、風樹館で目録が完成しているかもしれません。ちなみに、「RUMF-ZI-26277」などの記号は目録作成の際に所蔵標本1頭ずつに与えられた標識番号です。
名護市(奥武島);RUMF-ZI-24383;ベニモンアゲハ♂ 2012年4月30日(採集者名なし/沖縄昆虫同好会展示寄贈分)
久場島;
○RUMF-ZI-26277;イチモンジセセリ♂ 1976.10.12 東
○RUMF-ZI-26285;イチモンジセセリ♂ 1976.10.14 東
○RUMF-ZI-26290;イチモンジセセリ♂ 1976.10.13 東
○RUMF-ZI-26296;イチモンジセセリ♂ 1976.10.11 東
○RUMF-ZI-32993;ヤマトシジミ♀ 1976.10.13 東
○RUMF-ZI-33125;オジロシジミ♀ 1976.10.13 東
○RUMF-ZI-33129;オジロシジミ♀ 1976.10.14 東
○RUMF-ZI-33232;ルリウラナミシジミ♂ 1976.10.13 東
○RUMF-ZI-33916;オオゴマダラ♂ 1976.10.12 東
○RUMF-ZI-33920;オオゴマダラ♂ 1976.10.11 東
○RUMF-ZI-34978;アサギマダラ♂ 1976.10.11 東
○RUMF-ZI-34985;アサギマダラ♂ 1976.10.11 東
○RUMF-ZI-34079;リュウキュウアサギマダラ♂ 1976.10.14 東
○RUMF-ZI-34045;リュウキュウアサギマダラ♂ 1976.10.15 東
○RUMF-ZI-34046;リュウキュウアサギマダラ♀ 1976.10.12 東
○RUMF-ZI-34086;リュウキュウアサギマダラ♀ 1976.10.13 東
池間島;RUMF-ZI-26276;イチモンジセセリ♂ 1975.10.16 砂川(H.Sunagawa)
以上、仮称「琉球大学風樹館コレクション所蔵標本目録」によるであろう未記録種の追加は次です。
名護市(奥武島)のベニモンアゲハ
久場島のイチモンジセセリ
久場島のヤマトシジミ
久場島のオジロシジミ
久場島のルリウラナミシジミ
久場島のオオゴマダラ
久場島のアサギマダラ
久場島のリュウキュウアサギマダラ
池間島のイチモンジセセリ♂
さて、分布表を見直したことで、私のミスで抹消すべきプロットと、未発表があることが分かりました。「未」印の中で直接、私たちが関わっていない未記録種は、以下でこれらは当事者が記録する事がベストと思っていますので、個人的な私の表には「未」を入れていますが、空白のままにするのが良いでしょう。
浜比嘉島;ムラサキツバメ(宮城秋乃氏私信)
沖縄島;ヒメアサギマダラ(新田智が標本を確認している)
浜比嘉島;コモンマダラ(宮城秋乃氏私信)
石垣島;トラフタテハ(新田智が採集した本人から話を聞いている→標本は故後藤和夫氏所蔵)
※仮称「琉球大学風樹館コレクション所蔵標本目録」はいずれ発行される、もしくは発行されたかもしれません?
この際ですので、抹消の記録とともに、追加記録を以下に文章化しました。
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沖縄県における島嶼別蝶類の記録
新田敦子
筆者は、沖縄県における島嶼別の蝶類の記録種において、分布表を精査中に未記録と思われる蝶を確認しているので記録する。なお、観察者は特筆がない限り全て新田敦子である。
・大宜味村(宮城島)
 オキナワカラスアゲハ 2013年4月22日
・瀬底島
 クロボシセセリ 2018年5月15日
・名護市奥武島
 名護市奥武島は名護市羽地から屋我地島を橋で繋ぐ際に通過させている無人島である。羽地方面から屋我地島へ向かう場合、あっという間に通り過ぎてしまうので、蝶類の分布に関してあまり調査・記録されていないと思われる。2016年から短時間ではあるが、同島へ立ち寄り蝶のカウント・撮影などを行っているので以下に詳細を記しておく。なお、2016年7月〜2017年7月までの記録は「ありんくりん通信」特別号で報告済みである。
【名護市奥武島で観察・目撃した蝶(観察者;主に新田敦子)「*」は当日時点でおそらく未記録種】
2018年4月3日、名護市奥武島で観察・目撃した蝶
 アオスジアゲハ・ジャコウアゲハ・シロオビアゲハ*・モンキアゲハ*・ナガサキアゲハ・ミナミキチョウ・モンシロチョウ・ツマベニチョウ・ナミエシロチョウ・リュウキュウアサギマダラ・オオゴマダラ・ツマグロヒョウモン・アオタテハモドキ・リュウキュウミスジ・イシガケチョウ・テングチョウ*・リュウキュウヒメジャノメ・オオシロモンセセリ(智)・オキナワビロウドセセリ*(智)・ヤマトシジミ(智)
2018年4月20日、名護市奥武島で観察・目撃した蝶
 アオスジアゲハ・ジャコウアゲハ・ナガサキアゲハ?・ミナミキチョウ・モンシロチョウ・ツマベニチョウ・ナミエシロチョウ・リュウキュウアサギマダラ・オオゴマダラ・ツマグロヒョウモン・リュウキュウミスジ・イシガケチョウ・テングチョウ*・リュウキュウヒメジャノメ・イワカワシジミ(智)
2018年5月15日;名護市奥武島で観察・目撃した蝶
 チャバネセセリ*・ジャコウアゲハ・アオスジアゲハ・ナガサキアゲハ・ベニモンアゲハ(智)*・ミナミキチョウ・モンシロチョウ・ツマベニチョウ・ナミエシロチョウ・イワカワシジミ(智)・タイワンクロボシシジミ・ヤマトシジミ・テングチョウ*・リュウキュウアサギマダラ・ツマグロヒョウモン・リュウキュウミスジ・イシガケチョウ・アオタテハモドキ・ウスイロコノマチョウ(智)
2018年5月18日、名護市奥武島で観察・目撃した蝶
 オキナワビロウドセセリ*・ジャコウアゲハ・アオスジアゲハ・シロオビアゲハ・ナガサキアゲハ・ベニモンアゲハ*・クロアゲハ(智)*・モンキアゲハ(智)*・ミナミキチョウ・モンシロチョウ・ツマベニチョウ・ナミエシロチョウ・クロマダラソテツシジミ(智)*・タイワンクロボシシジミ・ヤマトシジミ・リュウキュウアサギマダラ・ツマムラサキマダラ*・ツマグロヒョウモン・リュウキュウミスジ・イシガケチョウ・アオタテハモドキ・ルリタテハ*
2018年5月29日、名護市奥武島で観察・目撃した蝶
 オオシロモンセセリ・アオバセセリ*・アオスジアゲハ・ナガサキアゲハ・シロオビアゲハ・モンキアゲハ*・ミナミキチョウ・モンシロチョウ・ツマベニチョウ・ナミエシロチョウ・クロマダラソテツシジミ*・タイワンクロボシシジミ・ヤマトシジミ・リュウキュウアサギマダラ・アサギマダラ*・オオゴマダラ・ツマグロヒョウモン・リュウキュウミスジ・イシガケチョウ・アオタテハモドキ・ウスイロコノマチョウ
2018年6月5日、名護市奥武島で観察・目撃した蝶
 オオシロモンセセリ・クロセセリ*(智)・アオスジアゲハ・ベニモンアゲハ*・ナガサキアゲハ・オキナワカラスアゲハ*・モンキアゲハ*・シロオビアゲハ*・ミナミキチョウ・モンシロチョウ・ツマベニチョウ・ナミエシロチョウ・イワカワシジミ(智)・タイワンクロボシシジミ・ヤマトシジミ・クロマダラソテツシジミ*・リュウキュウアサギマダラ・オオゴマダラ・ツマムラサキマダラ*・ツマグロヒョウモン・リュウキュウミスジ・イシガケチョウ・アオタテハモドキ・ルリタテハ*・ウスイロコノマチョウ
2018年6月12日、名護市奥武島で観察・目撃した蝶
 チャバネセセリ・オキナワビロウドセセリ*(智)・オオシロモンセセリ(智)・アオスジアゲハ・ナガサキアゲハ・モンキアゲハ*・シロオビアゲハ*・クロアゲハ*・ミナミキチョウ・モンシロチョウ・モンキチョウ*・ツマベニチョウ・ウスキシロチョウ・ナミエシロチョウ・イワカワシジミ・タイワンクロボシシジミ・ヤマトシジミ・クロマダラソテツシジミ*・リュウキュウアサギマダラ・オオゴマダラ・ツマグロヒョウモン・リュウキュウミスジ・イシガケチョウ・アオタテハモドキ
2018年6月11日、バナナセセリ*の幼虫巣を確認(智)
注)ベニモンアゲハ*については、仮称「琉球大学風樹館コレクション所蔵標本目録」で先に報告されている可能性がある。
【参考文献】
新田智・新田敦子(2018)「特集;離島大好き編(2003年〜2017年)」、ありんくりん通信 特別号;1-8.
(あらた あつこ 〒904-2232 うるま市川田125-1-103)
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◆何故、曖昧な孫引きをされてしまうのか?
 今回の照らし合わせ作業の参考資料は「改訂・沖縄県の蝶ー記録された島と食草ー」(2019)と「琉球列島採集観察地ガイド」(2020)です。私の表との照らし合わせで前者はヌケが多かったのに対し、後者は私の知らない文献を丁寧に拾ったのか、多く追加することができました。例えば、伊平屋島のコノハチョウです。青木氏に問い合わせをしましたところ、大屋厚夫『琉球列島の蝶』(2018)のコノハチョウ分布解説で「日本には八重山諸島の西表島、石垣島と沖縄諸島の沖縄本島と伊平屋島に産し、従来知られている分布地の北限は沖縄諸島の伊平屋島であった」とあるそうです。大屋厚夫氏にどういった記録を元にこういった記述をされたのか、出典が分かればいいのになと思った次第。ちなみに青木さんの「琉球列島採集観察地ガイド」の沖永良部島のページには伊平屋島のコノハチョウに関して「一時発生もあった」ような記述があり、大屋厚夫『琉球列島の蝶』を見てプロットしたうえで、本文を書いたのか少々謎です。私は大屋氏と面識もなく問い合わせするすべがありませんが、何方かお知り合いの方を通してお尋ねいただけると嬉しいなと思っています。
また、竹富島のリュウキュウウラボシシジミについては、やどりが220号の「琉球列島の固有のチョウ(青木俊明・山口就平・植村好延,2009)」によるもので、問合せをしたところ、白水(2006)の学研標準図鑑からの引用とのことでした。これまた、記録が本当にあるのか出典を知りたいと思いました。
「改訂・沖縄県の蝶ー記録された島と食草ー」にも明らかに読み違いで安易にプロットしている例がありました。これについては幸い?私が調べる事ができる文献(蝶研出版発行)だったので比嘉氏に抹消をお願いしました。一つは小浜島のカクモンシジミで原典と思われる記述(カクモンシジミ(藤原孝夫・小路嘉明「八重山諸島 小浜島の蝶」蝶研フィールド51;12.に‘今後期待できる種’)としているだけで,記録にいたっていないので抹消した方が良いとご指摘しました。もう一つは安室島のナミエシロチョウで出典は以下(ナミエシロチョウ;安室島 新田智2007. 海を渡るナミエシロチョウ. 蝶研フィールド22(9):20.)読み返してみますと、座間味島行きの船から安室島沖の海上を飛翔していたということで、安室島にプロットするのは、ちょっと違いますと抹消をお願いしました。こういった事例から、読み手の解釈の違いも大いに影響されると感じ、恐ろしくも思いました。
この分布表の見直し作業中に「昆虫の図鑑 採集と標本の作り方(増補改訂第2版)」が手元に届きました。追加の記述も多く、見応えがあります。気になったのがコノハチョウです。解説で「奥武島」とありました。これは、私たちが報告した「特集;離島大好き編(2003年〜2017年)」の中で、名護市奥武島で初記録したもので、大変有り難く思ったと同時に不安が残りました。沖縄県には名護市奥武島と南城市奥武島、久米島町奥武島と同じ名前の島が3つあります。後の世代で久米島町の奥武島とされたら、どうしょうか〜と。
◆分布表を鵜呑みにしない
 前章のように、記録を分布表に起こす(プロット)場合、作り手によって大きく違いがでてくることがわかります。「琉球列島採集観察地ガイド」で、石垣島のキアゲハについて、プロットが外されていたので、意図について青木氏に尋ねたことがありました。すると以下の双尾IIホームページの蘭を見て
「キアゲハ;石垣島オモト林道 1994年10月21日 明井勝治、よいこの蟲だより135-136(4917-4924、1994)。この記録について吉岡政幸氏に問い合わせたところ、誤同定の可能性を示唆するものの、記録の抹消の記事は2017年現在ない」
前著、八重山離島のガイドを作成する際に新田さんにお尋ねしましたが、上記のお返事(ホームページ書き込み)をいただいた(確認した)ので抹消しました。私の思いは、「いやいや、今のところ抹消の記録がないので、記録は生きているという事で、ホームページに覚え書きしているのですよ」と言いたいのをこらえました。青木氏は抹消されたと判断したようで,難しいなと実感しました。このように事実は一つのはずなのに、解釈のしかた受け取り方は人様々で勝手に消されたり、読み違いでプロットされたりします。
一番大切なのは、記録した当事者が間違いに気づいた時点で記録の抹消作業を自身で行うべきかと思っています。そして、抹消の事実(あるいは新記録)をなるべく広く伝えることが必要となってくるかと思います。私の場合は双尾IIホームページ(自分の記録は「ありんくりん通信」に報告)をフル活用するしかないという思いしかありません。残念な事に蝶研出版の頃に比べると文献を見る機会が無いに等しく、その乏しさは否めません。
孫引き、孫引きが続くと何が本当なのか、年代を経ていくにつれ、原典を探る作業がより難しくなって来ます。
プロットミスという場合もありますので「分布表を鵜呑みにしない」を肝に銘じたいと思っています。
◆これからの願い
 小路嘉明氏は蝶研博物館を作るという一つの夢があったようです。標本もそうですが、データーバンクとしての役割を果たしたいという思いもあったようです。その一つが「蝶類年鑑」です。これを一人でプログラミングからやっていました。白水隆先生はその先駆者で文献からメモを手書きでコツコツと行っておられましたが、小路氏はその背中をずっと追いかけていたように思います。お二方の仕事ぶりを思うと、ネット社会が充実している現在、せめて日本の蝶類の記録だけでも古い文献から拾い起こす必要があるのではないかと思っています。
ここからは夢の話ですが例えば、どこかの博物館にマザーコンピュータを置き、日本の蝶類に関わる商業誌、同好会誌、学校のクラブ誌など発行事に発行責任者がこのネットに繋がったマザーコンピュータへアクセスし随時、更新するというシステムを構築、古い文献は手分けしてでも入力を続けると膨大な資料となります。その記録は誰でも共有し見られるようになれば、素晴らしい事で、何より出典が即座に分かり、地域別や種別にソートできるようになれば、後世に引き継ぐ遺産になります。小さな蝶ですが、過去、現在、未来、その消長や生態的な観察記録の蓄積を見つめ分析する事で、何らかの変遷を読み解く事ができるかもしれません。自然から学ぶ事を人はやめてはなりません。
◆追記
 最近頂いた書籍「昆虫の図鑑 採集と標本の作り方(増補改訂第2版)」福田晴夫ほか(2020)で、以下、未確認の記録が続出していたので覚え書きしておく。
与那国島;ヒオドシチョウ1頭 2003年3月.
石垣島;ヤエヤマシロチョウ1♂ 1902年.
屋久島;クルーギールリマダラ(インドシナ亜種)2005年.
オオシロモンセセリ;三重県でも記録がある(詳細不明).
オナシアゲハ;佐賀県(1933年).
カバシタアゲハ♂;屋久島(花之江河の山小屋から栗生に下りてきたが、もう栗生が見える位のところで採集)1928年8月1日).
タイワンタイマイ;西表島(1973年8月5日2♂)、山口県光市(1981年9月2日1♂).
アカネアゲハ;波照間島でも記録(?).
ルリモンアゲハ;三重県四日市市港(1958年報告、年月日不明、1頭).
コウトウルリオビアゲハ;与那国島(1995年1♂、1997年1♂).
タイワンキチョウ;宮古島(1986年1♀)、北大東島(1979年1♂).
タイワンヤマキチョウ;与那国島(2008年4月1♂が記録、最近では2016年1♂目撃・未発表がある).
ラマムラサキシジミ;与那国島(1980年2♂1♀、1990年1頭)、西表島(1980年1♂、1998年1頭、2014年1♀)、徳之島(1991年1♂).
シロウラナミシジミ;奄美大島(1998年1♀)、宮崎県延岡市(1986年1♂).
リュウキュウウラボシシジミ;石垣島、竹富島に迷蝶の記録がある.
ホリイコシジミ;2003年高知県1頭、2007年鹿児島県指宿市1頭の記録がある.
クロホシヒメシジミ;西表島(1965年3月1♂、1967年9月1♀)、波照間島(1973年1頭).
ヘレナキシタアゲハ;三重県四日市市浜一色町 2000年5月13日1♂.
モクセイアゲハ;名古屋市(輸入果実を加工する会社内)1997年3月3日1♂(果物空き箱の脇に新鮮な死個体).
アトムモンセセリ;東京都新宿区 1987年8月1日1♀.
クビワチョウ;神奈川県横須賀市 1990年4月1♂(人為的迷蝶?).
ヒメウラナミシジミ;沖縄本島(1999年発生?)の記録あり、対馬1990年の記録は疑問.
ミダムスルリマダラ;沖縄本島(1994年1頭).
ガランピマダラ;沖永良部島(1993年1♀?).
ツマムラサキマダラ;千葉県(未発表)。栃木県、東京都、愛知県は飼育園からの逸出を含むか?.
クロイワマダラ;竹富島1969年1♂、黒島1974年1♀、沖縄本島1927年以前の記録。石垣島1992年1♀はガランピマダラの誤同定?.
オオカバマダラ;新潟県の記録もある.
ウラベニヒョウモン;古くは長崎市1880年の記録もある.
シロミスジ;与那国島のみで定着。神奈川県1929年の記録もある.
クロタテハモドキ;竹富島に不明記録もある.
イワサキコノハ;沖永良部島の他に宮崎県、神奈川県の記録.
ヤエヤマムラサキ;福井県、静岡県、伊豆諸島の記録
ベニモンシロチョウ;過去には西表島1952年〜1953年の記録がある
ソンダイカコノハワモン;与那国島2004年5月2日1頭目撃、2004年7月4日1頭目撃の記録